偏好文庫-「好き」を解釈し続けるメディア-

いろんな“好き”を愛するための(ひとり)メディア、偏好文庫です

Dannie May『五行』

2019年頃活動開始した3ピースインディーズバンド、Dannie May。メンバーはギターボーカル、DJ兼映像監督、キーボードボーカル兼トラックメイカー、しかも3人ともボーカルを執るという異色のバンドである彼らにとって初のコンセプトEPは、中国思想の五行説がテーマだ。一度聴いたら癖になるトラックメイキングの巧みさやMVとリンクしたストーリー性などにも注目したくなるが、彼らの主軸はやっぱり歌。活動初期には3人によるハーモニーを打ち出していたが、今作では三者三様の歌声の強さや色気が、時に美しいコーラスで、時にブレーンストーミングでもしているようなスリリングな掛け合いで、存分に打ち出されている。

万物流転の壮大なテーマの中で描かれるのは、現代の若者たちが生きる“今”。夢を追っても愛を語っても災害や疫病、政治の諸々なんかにひと吹きでかき消されてしまうその儚い生命を必死に生きる気概が、決して力むことなくポップに、しかしテクニックだけでは説明できない切実さを持って詰め込まれている。彼らを見ていると、全ての物事は五行説に用いられる5つの元素のように互いに影響し合っており、たとえ徒労に思えたことであっても、意味のないものなどないのだと思えてくる。

ラストトラック『黄ノ歌』のワンフレーズである「持たざる者のアドバンテージ」という言葉が僕はとても好きだ。彼らが活動初期に掲げていたキャッチコピーの一部、「弱者である3人」という言葉を思い出す。弱き者たちの反撃以上に、この世に面白いものはない。

 

 

五行

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