偏好文庫-「好き」を解釈し続けるメディア-

いろんな“好き”を愛するための(ひとり)メディア、偏好文庫です

tomomi『つれないほど青くて あざといくらいに赤い』1,2巻(集英社、2021~)

ピチピチの学生時代ははるか遠くなり、最近はティーンが主人公の恋愛漫画なんて、なかなか素直に楽しめなくなってしまった。たかが高校生が恋愛に人生を懸けるなんて……と、ついヒネクレてしまう。

アプリ『となりのヤングジャンプ』で連載中の本作。病的なまでの好奇心を持て余している主人公・アラタは転校初日に出会った謎めいた先輩・速水ミハヤに一目惚れ。その人は在籍中のいち生徒でありながら学校の七不思議のひとつに数えられているほど、素性どころか性別すらも不明な“生ける怪異”のような存在だった。ある種の信仰対象とも言えるほどの学校の人気者である先輩となんだかんだで距離を詰めていくアラタだったが、彼/または彼女に持ちかけられたのは「私が卒業するまでの1年間、君が“ケダモノ”にならなければ正体を明かす」という条件だった。

主人公はいわゆる好きな相手と恋仲になることよりも、“好きな人の全てを知る”ことに至上の快楽を感じるある意味での変態だが、それ以外は本当に純朴な好いヤツだ。だからこそ、速水先輩の蠱惑的さ、そして存在としての異常さが際立つ。決して“普通”の恋心を描く物語ではないが、普通でないからこそ、普通の青春恋愛漫画を楽しめなかった人をも掬い上げる懐の深さと恐ろしさを感じる。悪魔的なまでに色っぽい仕草で先輩が囁く、「この恋心に人生を賭す覚悟があるのなら」なんてクサい台詞にも、薄っぺらい“共感”ではなくあくまで追体験としてなら全力でドキドキできるはずだ。それはもしかしたら、吊り橋効果的な“ドキドキ”かもしれないけれど。