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【店主的2021年名盤紹介・その2】ビレッジマンズストア『愛とヘイト』

昨日に引き続き2021年リリースの音楽アルバムから好きなやつをピックアップしてレビュー書くやつをやっています。年内の更新はこれでひとまず終了、また年明けから再開します。何故なら今年出たアルバムでまだ回収しきれていないやつがあるからだ!!! 11〜12月リリースの作品とかほぼ聴けてない!!! 中田裕二とかLACCO TOWERとか絶対リスインしちゃうじゃん!!! どうしてこんな土壇場でリリースするの馬鹿!!!(理不尽なオタク)

それではそんな感じのパワーいっぱいな作品の紹介をどうぞ(は?)

 

 

■ビレッジマンズストア『愛とヘイト』(2021年7月リリース)

ビレッジマンズストアは今回約3年ぶりの新譜。とは言え彼等はあまり音源のリリースが多くないのんびり屋なところも魅力のバンドなのでこの頻度は彼等にとっては早いぐらい。いっそ狂気を感じる程にライブをするひとたちだから、その機会の多くを奪っていった2020年への恨み晴らさでおくべきかとでも言わんばかりのパワーと時間をすべてアルバム制作に注ぎ込んだのかもしれん。

実際曲のクオリティもおいそれと評価するだなんて恐れ多いぐらいに仕上がりがすごい。リードトラックの『猫騙し人攫い』なんか冒頭の歌、サビのメロディにギターのリフまでキャッチーすぎてびっくりしちゃった。どうしてこれがタイアップついてないの。時代なの。時代が悪いの。

キャッチーという概念はロックンロールとは無縁というか、対極の位置にあるもののような気もするのだけれど、そもそも日本のロックミュージックの源流には歌謡曲があって両者は切っても切り離せない関係にあるので、そういう点ではごく自然だし自身のルーツに対してとても真摯なバンドなのだなと改めて感じました。そろそろなんでもいいからTikTokとかでバズってくれ。

 

作詞がまたすげえんだ。ボーカル兼メインコンポーザーの水野ギイさんは独特の歌声や美しすぎるヴィジュアルばかり注目されがちだけれど、僕は個人的に彼の事をめちゃめちゃ優れた詩人だと思っているんです。「猫騙人攫(びょうへんじんかく)」という謎四字熟語の爆誕に、『Anarchy In The T.A.X』での「税(TAX)」と「抱き合おうぜ」の「ぜ」をかけたライム。中でも特に凄まじいのが『御礼参り』の歌詞。ライブでも既によく披露されていた曲だけれど、僕は個人的にこの曲はビレッジマンズストアの真髄が詰め込まれているなと感じています。彼等の楽曲って元々根暗や陰キャ、過去にイチモツ抱えた人間に優しい音楽だなと思っているのですが、別にそれらの性質により傷ついた僕達の心を癒してはくれないんですよね。逆に案外厳しくて、“あの頃”の記憶をほじくり返してケロイドを引っ掻くようなモチーフが多い。先述のKEYTALKの時の義勝さんの作詞の際も触れたんですが、ギイ様の作詞も彼と同じく日本語ロックに映える“抽象”と“具象”のバランスが丁度良くて、それがまた“あの頃”の傷を引っ掻く描写を適度に和らげてくれているんです。だからこそ詩として美しいし、だからこそ汎用的に、様々なタイプの陰キャのケロイドに刺さるんですよね。程よく抽象的である事により射程範囲が広がっている。同級生の嘲笑! 誰もいない教室! 帰る場所のない家! 自室の片隅でヘッドホンつけてロックンロールを聴いて、いつかいつかあいつらに逆襲してやるんだと夜道を引き摺る釘バット!!! って感じ。ある種共感性羞恥的なヒリヒリ感を覚えるのですが、それがまたかえって、「このひとたちの音楽なら、どんなにどうしようもない感情でもいつでも受け止めてくれるんじゃないか」と思わせてくれる。多分ギイ様ご自身もそうやって、音楽や詩に慰められてこのどうしようもなく醜いこの俗世を生き抜いて来られたのでしょう。


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そもそもが『御礼参り』はライブ会場限定で販売されていたシングル曲なのですが、このアルバムにはそういう曲が結構収録されています。それらの曲が出た頃にはこのアルバムの構想はまだなかったんじゃないかと思うのですが、元々アルバム曲だったかのように馴染んでいる。それはつまり、このアルバムのコンセプト自体が彼等のこれまでの作風の根底を成しているもののひとつだということなんじゃないかと。“愛”と“憎しみ”。相反するこのふたつの概念ですが、人生において切り離せないものです。

それを考える上でキーになるのが、冒頭の『ラブソングだった』と最後の『LOVE SONGS』両方に登場する印象的なフレーズ「サヨナラだベイベー」。これ、双方とも似たタイトルしてるんですけど、冒頭の方はインタールード的なバラードで最後の1曲がアップテンポで優しいロックンロールなんですよね。バラード始まりという時点で構成にかなりびっくりしたんですが、この2曲に共通しているフレーズはいずれもメロディも一緒。この2曲がアルバムの前後を飾る事で一貫性のある、構築的な印象になります。この仕掛けがある事によって、バラバラに生まれたはずのシングル曲達までもが1本の糸に結ばれ、一貫したテーマが浮き彫りになってくる。その“一貫したテーマ”こそが「サヨナラだベイベー」なのかもしれません。

「さようなら」という言葉はそもそも、相手へ愛がないと言えない言葉です。単なる挨拶としてならばそりゃ誰にでも言えるでしょうが、袂を分かつ相手を“送り出す”という行為は、本当に相手の行く先の幸せを祈れない限りおいそれとは出来ないはずです。相手が恋人ならばあわや次の恋では苦しんで別れ、自分のもとに帰ってきてほしいだなんて思ってしまうかもしれませんし、相手が友人でも相手の都合を考えずに無闇に引き止めてしまうかもしれない。「サヨナラだベイベー」の言葉に辿り着くまでには色々な苦しみや憎しみ、恨みを乗り越え、真の愛を見つけないといけない長い長い道程があります。

ビレッジマンズストアはライブハウスで成り上がってきたバンドで、既に中堅と言われても良いキャリアを積んでいます。今までも、そしてこのご時世では余計に、中途脱落を繰り返して消えていってしまった親しい才能達がたくさんいるはず。そんな無数の夢の亡骸に「サヨナラ」を繰り返して今の彼等は晴れ舞台に立っているのだと、その切実な覚悟とそれを裸のまま叩きつけないお洒落さに感服しきりの1枚でした。

あと初回限定盤のブックレットも見て!!! 裏表紙だけでも見てって。水野ギイの美しい背中を前に共にひれ伏してくれ。

 

 

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