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【店主的2021年名盤紹介・その4】Tempalay『ゴーストアルバム』

3月にしてやっと完結を目指す2021年ベスト音源。4枚目は昨年CDデビューしたばかりのこちらのバンドのアルバムをご紹介します。バンド文化が死んだと言われて久しい昨今ですが、店主はバンド狂いなので構わずバンドの音源ばかり取り上げます。わかるひとだけわかってくれればいいです。

■Tempalay『ゴーストアルバム』(2021年3月リリース)

バンド好きの間では既にお馴染み、あのKing Gnuも一目置く変態……もとい、サイケロックバンドTempalay。僕も数年前から聴いていたのでまだメジャーデビューしてなかったこと自体が意外だったのですが、こちらがメジャーデビュー1作目のフルアルバムです。ご存じという方がどの曲で彼らを知ったのか、データが多くないのでわからないのですがやっぱり『革命前夜』とかでしょうか? やっぱりそう? 僕もそう。

あの曲が収録された『from JAPAN 2』ぐらいの時期の彼らは西部アメリカ!!! 西海岸!!! みたいなイメージが強くて、オシャンティーだけどもどことなく(よい意味での)気持ち悪さの漂うミクスチャーな感じが心地好かったわけだけれど、“オシャンティー”と“無害”は紙一重なんですよね。ここ、(※個人の感想です)って脚注つけておきたいんですけれども。

個人の感想ついでに本当に勝手なことを言うのですが、最近再興してるシティポップの文脈をなぞった耳触りの良いグッドミュージックって、耳触りがいい分引っ掛かりがなくてすぐ忘れちゃうんですよね。僕は馬鹿だし音楽に関しては常に刺激を求めているジャンキーなので、どうしてもより強烈で、且つ繊細な引っ掛かりのある音楽を求めがち。

で、Tempalayのメジャー1作目なのですが。ありまくりです。その、“より強烈で、且つ繊細な引っ掛かり”。

いや、彼らに関してはもう既にアルバム『なんて素晴らしき世界』収録の『どうしよう』辺りからその化けの皮を脱いでいたような気はするのだけれど、まさかメジャーというより広い層へ届く機会を得たタイミングでこんなアルバム出してくる!? と正直正気を疑いました。Tempalayの。余計なお世話過ぎる。

1曲目から謎に祭囃子。インタールード的なそこから繋がる2曲目『シンゴ』は巨匠・楳図かずお先生の『わたしは真悟』を着想源にしたという、どんより曇天なのに謎の爽快感さえ感じられる妖しげなサイケロックだし、その勢いのままどんどん加速しながら、神的な高貴ささえ漂わせてくるのがすごい。『ガロ』的な漫画、廃墟の遊園地、真夜中のブラウン管に映されていた、タイトルすら忘れたような古い古い日本のB級怪獣映画。メインコンポーザーでボーカルの小原綾斗くんが作る曲は決して歌謡曲やクラシックのようなわかりやすい邦楽の文脈に立ってはいないし、年中転調するし、先が一切読めない展開なのだけれど、絶妙に使いこなされたヨナ抜き音階と日本的な音素材のサンプリングによって次第に脳味噌が不思議な郷愁の水の中に浸されていきます。

更に作詞。無頼としか言いようがない独特の世界観や時に皮肉っぽいテーマ性が際立って感じられるのだけれど、Tempalayの歌詞ってそもそも日本語としてとても美しいものが多いです。アルバムが展開していく程にその美しさは増していって、なかでも特に印象深いのが『冬山惨淡として睡るが如し』、そしてシングルカットもされている『そなちね』、『大東京万博』。アルバムの最後が『大東京~』で締められているのがまたニクいよね!! 二胡のようなオリエンタルなサウンドや祭祀的な合いの手、「死なないで/生きていてね」という祈りのような歌詞。シングルとして単曲で聴いても充分不思議な呪術的な神聖性のある曲なのだけれど、アルバムの最後に入った時の据わりの良さにびっくりしました。“ゴースト”の名のついたアルバムを締めくくるのに相応しい、霊的なパワーを感じる。それも天上界を描いたような手が届かない遠い神聖性ではなく、まるで道端の道祖神のような、故郷の街角のお地蔵さんのような、土着的で親しみやすい神聖性です。ああ、彼等はもしかしたらずっと、こういう表現がしてみたかったのかな、と思いました。

壮大な神話的スペクタクルなのか、それともはたまた、特撮や日本神話が好きな夢見がちな少年のひとりよがりな空想の世界に過ぎないのか。世界と自身の境界が曖昧になるような、心地好い不安感を通り抜けた先に見える、繭の中のような不思議な安らぎが得られる良盤です。


Tempalay、面白いんだよ。綾斗くんはイマドキな感じのお洒落ボーカルかと思いきや謎の鵺みたいな声で叫び始める時があってそれがクールだし、AAAMYYYちゃんは異常シンセとブラウンシュガーみたいな甘い歌声を使いこなす美女だし、自由自在に変化するドラムがカッコイイなっちゃんは見た目も自由自在に変化しすぎで見る度髪型が違うし、掘れば掘る程違った面が見えてきて楽しい。万人にはハマらないかもしれないけれど、これからもっと凄いことになるに違いないバンドです。