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【2020年2月執筆】感想文:映画『ヴィニルと烏』:地獄の青春文学と俳優・井口理の“含み”

※この記事は2020年2月に店主イガラシのnoteにて公開された記事に加筆修正を加えたものとなっております。情報は記事執筆時点のものとなっておりますので、何卒ご了承ください。

 

 

2019年11月、期間限定上映をしていた際に観賞。監督は若手のホープ、横田光亮氏。主演から脚本まで務める八面六臂っぷりの監督の魂が詰め込まれた30分に陰と深みを宿すのは、俳優・井口理。そう、King Gnuの彼(推し)ですね。


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実は僕がKing Gnuを知った2018年の段階でもとある映画祭で上映されていて、その時は運悪く高熱を出してしまい機会を失ってしまったのだけれど、故あってお世話になっているツイッターのフォロワーさんにお誘い頂き、やっと観賞の運びと相成りました。長い道程だった。

簡単に説明すると、物静かな男子高校生がクラスメイトから酷いいじめを受け、それに反撃するためにボクシングの心得のある兄貴から闘い方を教わる――と言うようなお話なんですけれど、多分される方でも巻き込まれた方でも、かつていじめに関わった経験のあるひとはフラッシュバックとかしちゃうんじゃないかな、と言う程度には生々しいです。映像はまだ荒削りな感じも多分にあるのだけれど、そこは流石マカロニえんぴつのMVも監督した華々しいキャリアのある期待の横田監督、「まだ経験も浅いし、こんなもんだろ」と言う感じの粗の多さでは決してなくて、その荒削りさがドキュメンタリーのような、青春文学のような芸術性と生々しさに繋がっているように思えるのが凄い。

個人的に一番魅力的に感じたのは、ワンカット毎の画ヂカラの強さ。どのシーンを切り取っても絵になるんだから最強だよ。特に大好きなのが、クライマックスの校舎裏で横田監督演じるジュンと井口くんが演じるいじめっ子(サッカー部のエース然としている)が対峙するシーン。絵として完成度が高すぎていっそ神々しいレベルだった。パネルにして飾りたい。

作品としての魅力は当然ながら、念願だった役者・井口理もそれはそれは末恐ろしいものがありました。初っぱなからフルスロットル。暗く沈んだ、森の奥の澄んだ沼みたいな瞳でこちらを覗き込み、可愛らしく整った相貌の真っ白な陶器のような頬を醜く歪ませて笑うんですよ。怖い。この世の軽蔑の権化みたいな表情してる。悪い思い出ががっつり蘇るかはたまた新しい扉が開く音が聴こえるかのいずれかですあれは。でもその軽蔑そのものの薄ら笑いの奥には確実に、彼自身が抱える虚無や苦しみがあるのだろうな、と思わされる奥の深さのある恐ろしさでした。(2021.9追記:最近も色々と話題になる事があったけれど、いじめ自体は絶対に許されるものではないししてしまった過去は一生してしまった方に付きまとってほしいとすら思うのだが、「ただウザいから」いじめるヤツと相手に何かしらのコンプレックスや羨ましさなどを抱いているが故にいじめてしまう、というようなケースは明確に違うわけで。この物語において井口くんが演じたいじめっ子が何故ジュンをターゲットとしたのかは明確には描かれないのだけれど、きっとこのいじめっ子の彼は後者なのだろうな、と思わせる“含み”を藝大在学中の段階で既に表現出来ていた井口理、やっぱりすげえ)

その他の役者さん達の存在感も素晴らしくて、しかも行間の読み甲斐がありまくりなのでもうちょい長尺で撮ってほしかったな~と思ってしまうぐらいでしたね。でもあれぐらいコンパクトな方が良いのかな、とにかくヒリヒリした、古いケロイドを引っ掻き回されるような映画だったから……。

 

それでも、僕はあの作品に出会えて良かったと思っています。ひとりだったら発狂してたかもだけどな!!!!!!まじでフォロワーさん誘ってくださって有難うございました……。でもこのしんどさを正しく感じられるような感性が培われたのは間違いなく、僕も主人公の彼と同じような目に遭ってきた経験があるからで、僕の人生は決して間違いじゃなかったのかな、なんて思わされたり。とにかく、ずっと浸っていたいと思ってしまうぐらい、青臭く泥臭く、苦しいのに何故か爽快な、青春の地獄を結晶化したような映画でした。